耐震コラム

学校の耐震補強は本当に十分?公立・私立の違いと授業を止めない工事の進め方

「学校の耐震化率はほぼ100%だから安心」と思っていませんか。 実は、公立・私立の違いや校舎以外の建物、天井や設備などの非構造部材には、まだ見落としがちなリスクが残っていることがあります。 本記事では、学校の耐震補強の現状や、授業を止めずに進める居ながら工事のポイントや、専門家の選び方まで、学校側の視点でわかりやすく解説します。

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学校の耐震補強の現状

学校の耐震化の現状と、非構造部材や老朽化の問題について整理します。

学校の耐震化率と、まだ対応が必要な建物・施設

公立学校の耐震化率は、国の調査では「ほぼ100%」とされています。一方で、私立学校などでは、財政事情や学校ごとの判断もあり、地域によって対応のばらつきが残っていることが指摘されています。

さらに、数値として示される「耐震化率」は、主に授業で日常的に使用される主要な校舎を対象にしたものが多く、すべての建物を意味しているとは限りません。増築箇所や特別教室、屋内運動場、部室、倉庫、渡り廊下など、あとから建てられた建物や施設が耐震診断・耐震補強の対象から漏れている場合があります。

非構造部材・老朽化・防災の観点で再点検したいポイント

学校の安全性を考えるうえでは、柱・梁・壁などの「構造体」だけでなく、天井材、照明器具、空調機、間仕切り壁、ロッカーや本棚といった「非構造部材」によるリスクも見逃せません。大地震の際には、建物自体は倒壊しなくても、天井や設備機器の落下により児童・生徒が被災する事例が多く報告されています。

また、築年数が古い学校では、雨漏りやひび割れ、鉄筋の錆びなど、老朽化に伴う劣化が進行していることもあります。こうした劣化は、耐震性能だけでなく、日常の安全性や衛生面、快適性にも影響します。加えて、学校は地域の避難所として利用されることが多く、災害時に必要となるトイレ・水・電源・バリアフリー動線といった防災機能の観点からの点検も欠かせません。

学校の耐震補強では、非構造部材の落下防止、老朽化対策、避難所としての機能確保まで含めて、総合的な見直しが求められています。

<参照>
公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査結果(令和6年10月29日 文部科学省)
https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/2024/attach/1419961_00001.html

法律・指針から整理する「学校に求められる耐震補強」

本章では、学校に対してどのような耐震対策が求められているのかを、法律・指針の観点から整理します。

学校の防災拠点としての役割

学校は、児童生徒が多数集まる場であると同時に、大規模地震時には地域の住民が避難してくる「防災拠点」としての役割も担っています。そのため、建築基準法や「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」、各自治体の地域防災計画などにおいて、学校施設の安全性向上は優先度が高くなっています。

公立学校については、国の補助制度や自治体の計画に基づいて耐震診断・補強が進められ、高い耐震化率が達成されてきました。一方、私立学校や専修学校等の場合は、法令上「努力義務」とされる場合があり、財政的な問題から対応が遅くなることがあります。

法令上どのような耐震性が求められているのか、利用できる自治体独自の補助金・助成金制度等がないかを把握することが大切です。

文科省ガイドライン・Q&Aで示される耐震診断・補強の基本的な考え方

文部科学省は、学校施設の耐震化を推進するために、耐震診断や補強の考え方をまとめた指針やQ&A、事例集などを公表しています。その中で、建築基準法の「新耐震基準」以前に建てられた建物について、原則として耐震診断を行い、一定の基準を満たさない場合には耐震補強や建て替えを検討することが求められています。

ただし、「すべての学校で同じ期限までに一律に補強を行う」のではなく、地震リスクや利用状況、避難所としての役割などを踏まえて優先順位をつけ、計画的に進めるという方針が取られています。また、耐震補強と同時に、老朽化対策や学習環境の質的改善を図ることも推奨されています。

<参照>
学校施設耐震化推進指針(文部科学省)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/taishin/03071501.htm

学校施設の非構造部材の耐震対策事例集(文部科学省/国立教育政策研究所)
https://www.nier.go.jp/shisetsu/pdf/hikouzoujirei.pdf

授業を止めずに耐震補強を行う「居ながら工事」

実際に耐震補強工事を行う際には、長期休みだけで全ての工事を終えることは難しく、多くの学校では授業が行われながら耐震補強を進める、いわゆる「居ながら工事」が行われています。居ながら工事を安全に進めるためのポイントを整理します。

居ながら工事で優先すべき児童・生徒の安全確保

居ながら工事で耐震補強を行う場合、最優先で考えなければならないのは「工事エリア」と「児童・生徒の活動するエリア」を明確に分けることです。

  • 工事区画を仮囲いで完全に仕切る
  • 仮設フェンスや標示によって立入禁止区域を明示する
  • 資材の搬入ルートと児童・生徒の通行ルートが交差しないように計画する

などの他に、火気を扱う作業や粉じん・騒音・振動を伴う作業は、できるだけ児童・生徒のいない時間帯に行うなど、時間帯の調整も重要です。

こうした配慮は、学校側と設計者・施工者が事前に協議し、時間割や行事予定も踏まえた「工事中の学校運営計画」として整理しておくことで、事故やトラブルを未然に防ぐことができます。

長期休業の工事と非構造部材対策

夏休みや冬休みなどの長期休業期間は、騒音や振動が大きい工事、危険を伴いやすい工種を集中的に実施し、通常の授業中は、比較的軽微な工事や、児童・生徒が立ち入らないエリアを中心に作業を行うことで、授業への影響を最小限に抑えられます。

また、天井材の落下防止、照明器具や空調機の固定、書架・ロッカーなどの転倒防止といった非構造部材の対策についても、工事の足場や仮設設備を設けるタイミングと重なる部分が多く、耐震補強と合わせて計画することで工期や手間を効率的に使うことができます。

学校の耐震補強の進め方と専門家の選び方

学校の耐震補強は、自治体や学校法人全体の施設整備・財政計画とも関わる一大プロジェクトです。限られた予算と時間の中で、どの建物から、どのような範囲で、どのような進め方をするかを決めるには、学校側・教育委員会・専門家が同じ情報を共有しながら進めることが不可欠です。

学校の耐震補強の進め方

公立学校の場合、耐震補強は教育委員会が主導し、学校側・設計事務所・施工会社が連携して進めるのが一般的です。

まず学校側では、次のような情報を整理し、「学校の現状を説明できる資料」を揃えておきましょう。

  • 建設年
  • 構造種別
  • 増改築の履歴
  • 図面の有無
  • 過去の耐震診断結果
  • 日常的に発生している不具合やヒヤリハットの情報

そのうえで、教育委員会や構造設計事務所とともに、どの建物から優先して耐震補強を行うか、工事のスケジュールを検討していきます。この際、「耐震補強だけ」を単独で考えるのではなく、将来の統廃合・改築計画、教室配置の見直し、ICT環境や空調設備の更新など、他の課題と合わせて検討することで、施設全体として無理のない計画を立てることができます。

学校の耐震補強を任せる専門家の選び方

学校の耐震補強では、構造計算や耐震補強設計の検討はもちろん、「居ながら工事」で安全に工事を進めるためのノウハウや、耐震改修を伴う空間づくりの提案力も重要になります。

そのため、学校施設や同規模の公共施設での耐震補強の実績がある構造設計事務所へ依頼することがおすすめです。

専門家を選ぶ際には、

  • 学校や類似の公共施設での耐震補強の実績があるか
  • 居ながら工事の安全対策や工程調整の知見があるか
  • 耐震補強だけでなく、改修・設備更新・非構造部材対策まで含めた提案ができるか

といった点を確認するとよいでしょう。

また、保護者や地域住民への説明は、計画段階から行い、学校としての方針、安全対策等を丁寧に共有することが重要です。専門家が一緒にサポートしてくれるのであれば、学校側の負担は大きく軽減されますし、理解と協力も得やすくなります。

さくら構造は、構造設計事務所として豊富な実績があり、構造設計に特化した専門家が多数在籍しており、全国対応が可能です。耐震診断のみのご相談も承っています。

子どもたちと地域の皆さまが安心して学校を利用できるよう、一貫したサポート体制を整えています。ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。

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