耐震コラム

工場・倉庫の耐震診断の基本|必要性を判断するポイント

工場や倉庫の耐震診断を「いつかやらなければ」と思いながら、稼働への影響や手間が気になって先送りにしていませんか。 本記事では、工場・倉庫に耐震診断が必要か判断するためのポイントと、耐震診断の流れ、診断後の耐震補強などの対策について解説します。 まずは工場・倉庫の状況を把握するところから、一緒に確認していきましょう。

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工場・倉庫で耐震診断が求められる背景

工場や倉庫は、人だけでなく設備・在庫・危険物が集まります。 ひとたび地震で被災すると「ケガ人」だけでなく「長期の操業停止」に直結します。 まずは、なぜ工場・倉庫で耐震診断が重視されているのか、その背景を整理します。

地震被害が工場・倉庫にもたらす影響

工場・倉庫は、オフィスや住宅と比べて、広い空間に多くの人・設備・在庫が集まる点が特徴です。地震で被害を受けると、

  • 従業員の人命被害
  • 生産ラインやマテハン機器などの設備の損傷
  • 在庫・原材料の崩落などによる物的損失
  • 納期遅延や操業停止による営業活動への影響

が一度に発生する可能性があります。

建物が全壊していなくても、天井や照明の落下、ラックの転倒、電気や水道が止まることで、安全が確認できるまで操業を再開できないケースも多く報告されています。 とくに生産拠点や物流拠点が限られている企業では、一つの工場・倉庫が止まるだけでサプライチェーン全体に影響が及びかねません。

また、工場・倉庫は大空間で天井が高く、揺れに伴う変形が大きくなりやすい構造です。 そのため「人・設備・在庫を守る器」としての建物の耐震安全性を事前に把握し、対策を検討することが、BCP(事業継続計画)のうえでも重要です。 まずは、耐震診断で現在の耐震性能を確認しましょう。

新耐震・旧耐震の違い

工場・倉庫の耐震性を考えるうえで大きな境目となるのが、1981年(昭和56年)6月1日の建築基準法施行令改正です。 旧耐震基準は「中程度の地震で倒壊しないこと」を前提とした考え方でしたが、新耐震基準では、

  • 中地震では、軽微な損傷にとどめ継続使用できること
  • 大地震でも、倒壊・崩壊せず人命を守ること

といった性能目標が明確化されました。

工場・倉庫においても、1981年6月以前に建築確認を受けた建物は、耐震性能が不足している可能性があります。 まず「旧耐震基準か新耐震基準か」を確認し、旧耐震基準に該当する場合は、早めに専門家による耐震診断を検討しましょう。

<参照>
国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

どの工場・倉庫に耐震診断が必要か|法令と規模・用途で確認

「自社の工場・倉庫は、法律上、耐震診断が必要か?」を確認するポイントや、特定既存耐震不適格建築物の考え方を整理しました。

特定既存耐震不適格建築物と工場・倉庫の該当条件

耐震診断や耐震改修を特に促進すべき建物として、「特定既存耐震不適格建築物」という区分があります。 特定既存耐震不適格建築物とは

  • 旧耐震基準(1981年6月以前の基準)で建てられている
  • 一定規模以上で、多くの人が利用する

といった条件に当てはまる建物を指し、法令や自治体の計画に基づいて、耐震診断の実施が求められます。

特定既存耐震不適格建築物の対象としてよく挙げられるのは、学校・病院・百貨店・事務所ビルなどですが、工場・倉庫であっても、規模や用途によっては対象とみなされる場合があります。 たとえば、

  • 延べ床面積が大きい工場・物流倉庫
  • 不特定多数の出入りがある物流センター
  • 危険物・有害物質を取り扱う製造施設や貯蔵施設

などは、自治体の耐震改修促進計画の中で重点的な検討対象となっているケースが多く見られます。 また、各自治体が独自に定める条例などで、耐震診断や耐震補強の対象となる場合もあります。 まずは「自社の工場・倉庫が重点的な耐震化の対象になり得るか」を確認することが重要です。

自社の建物が耐震診断が必要か確認するポイント

自社の工場・倉庫が耐震診断を検討すべき建物かどうかを、まずは次のような基本情報から整理してみましょう。

① 建築年(建築確認申請日)
建物の「完成年」だけでなく、「建築確認申請を出した日」を確認します。 目安として、1981年(昭和56年)5月31日以前に建築確認を受けた建物は旧耐震基準で設計されている可能性が高いとされています。 建築確認申請日が分からない場合は、確認済証・台帳記載事項証明書・建築計画概要書などを確認しましょう。

② 用途(工場・倉庫の種類)
危険物を扱う施設や、不特定多数が出入りする物流拠点、重要な生産ラインを抱える工場ほど、地震時の影響が大きくなるため、耐震診断の優先度は高くなります。 また、竣工後に用途変更(コンバージョン)を行っている場合は、専門家に相談しながら確認するのがおすすめです。

③ 規模(階数・延べ床面積)
階数が多い建物、延べ床面積が大きい建物ほど、特定既存耐震不適格建築物や自治体の重点対象として扱われやすくなります。 特に、大規模な工場や倉庫・物流センターの場合は、どの建物から優先的に診断・改修を行うか検討する必要があります。

これらの情報は、

  • 建築確認関係書類(確認済証・検査済証・建築台帳記載事項証明書など)
  • 登記事項証明書
  • 既存図面・申請書類

から把握できます。まずは「建築年(建築確認申請日)」「用途」「規模」の3点を確認し、自社の工場・倉庫は耐震診断を行うべきかどうか、耐震の専門家に相談しましょう。

<参照>
建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)
https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000123
国交省「建築物の耐震診断及び耐震改修の促進を図るための基本的な方針」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/content/001470933.pdf

工場・倉庫の稼働を止めずに進める耐震診断の流れ

「耐震診断は工場を止めないとできないのでは?」と心配されることがよくありますが、操業への影響を最小限に抑えながら進めることが可能です。 ここでは、診断前に用意しておきたい資料と、現地調査から評価までの基本的な流れを整理します。

最初に準備する資料

次に、建物の情報を確認します。 耐震診断が必要か判断する際にも、実際に耐震診断を進める際にも、以下の資料が重要になります。

  • 建築確認済証(確認済証)
    建築確認の内容(確認年月日、延床面積、用途・規模・構造種別など)を確認します。※建築確認申請日そのものは別資料で確認する場合もあります。
  • 検査済証
    建築基準法に適合した状態で竣工したことを示す公的書類です。完了検査の有無は、その後の手続きや評価にも関わるため、所在を確認しておきましょう。
  • 設計図書(意匠図・構造図など)および構造計算書
    構造種別(RC造・S造・SRC造など)、壁・柱の配置、増改築の有無などを把握できます。これらの図書が揃っていると、より正確に耐震診断を行うことができます。
  • 建築台帳記載事項証明書・建築計画概要書
    確認済証や検査済証が見当たらない場合に使用します。所管行政庁の窓口で取得可能です。

これらの資料を揃えておくことで、建築時の状況および、その後の増築・用途変更などの状況を把握することができます。

耐震診断の進め方

必要な資料がそろったら、次に現地調査・耐震性能評価へと進みます。一般的な耐震診断の進め方は次のような流れとなります。

  1. 予備調査(ヒアリング・資料の確認)
    工場・倉庫の稼働時間、危険物の有無、立入可能エリアなどをヒアリングしながら、建築確認済証や設計図書(意匠図・構造図)、過去の増築・用途変更の有無、設備更新や大規模改修の履歴などをもとに、建物の現状と図面に差異がないかを確認し、現地調査のための準備を行います。
  2. 現地調査
    柱・梁・ブレース・壁の配置や劣化状況、接合部の状態などを目視で確認し、必要に応じて仕上げを一部はがして構造を確認したり、コンクリート強度の測定のためにコンクリートのコア抜きや非破壊試験を行ったりします。
  3. 耐震性能評価
    「現状の耐震性能がどの程度か」をIs値(構造耐震指標)などを用いて整理します。
  4. 今後の方針整理
    工場・倉庫の稼働への影響やBCPの観点も考慮しながら、必要な対策の優先順位や、耐震補強設計・建て替えを含めた今後の選択肢を検討していきます。

工場・倉庫の耐震診断結果にもとづく対策と専門家の選び方

耐震診断の目的は、工場・倉庫を止めずに、耐震性をどのように改善していくかを決めることです。 本章では、耐震補強・建て替えなどの対策の優先順位づけと、相談する専門家の選び方のポイントを整理します。

耐震補強・建て替えなど対策の優先順位づけ

耐震診断の結果は、「耐震補強をやるべきかどうか」を判断するためだけのものではなく、限られた予算と時間の中で「いつ、どこから着手するか」を決める材料として活用します。ポイントは次の通りです。

  1. リスクの高い用途・エリアの優先度をあげる
    危険物エリア、避難経路、事務室など、人命や二次災害への影響が大きい部分は、優先度を高く設定します。
  2. 生産・物流への影響度で整理する
    代えがきかない生産ラインや物流拠点を洗い出し、診断結果を踏まえて「いつ・どこまで対応するか」の全体像を設定します。
  3. 設備更新計画とタイミングをあわせる
    長期修繕計画や設備更新計画とあわせて検討することが重要です。工事のタイミングと合わせて耐震補強工事を検討することで、工場・倉庫の稼働への影響を抑えやすくなります。

工場・倉庫の耐震診断を任せる専門家の選び方(構造事務所・業者の実績・体制)

診断結果を活かした対策を進めるうえでは、「誰に相談するか」も非常に重要です。 工場・倉庫の耐震診断・補強を任せる専門家を選ぶ際には、次のようなポイントを確認すると安心です。

  1. 工場・倉庫(S造・RC造・SRC造など)の実績があるか
    事務所ビルや学校とは構造や使用方法が異なるため、工場・倉庫の設計に対する知見を持っているかが重要です。過去の事例や用途別の実績を具体的に聞いてみましょう。
  2. 耐震診断だけでなく、その後の補強設計まで相談可能か
    診断結果をどう活かすかという視点を持っている専門家であれば、事業計画と合わせた現実的な提案が期待できます。構造設計事務所や、耐震補強の実績が豊富な設計・施工チームかどうかを確認するとよいでしょう。
  3. 行政との事前相談や各種制度の活用に詳しいか
    自治体によっては、耐震診断や耐震改修の補助制度や、事前相談の窓口が設けられている場合があります。所管行政庁の制度の活用経験がある専門家であれば、手続きもスムーズに進めやすくなります。

以上のポイントを踏まえ、複数の業者に相談すると、自社の方針や現場の実情に合っているかどうかを見極めやすくなります。

工場・倉庫の耐震診断は、診断して終わりではなく、その結果を踏まえて長期的に建物と付き合っていくためのスタートです。自社の事業と現場の実情を理解し、継続的に相談しやすい構造事務所を選ぶことで、工場・倉庫を守ることができます。

さくら構造の「リボビル」では、工場・倉庫の耐震診断から、診断結果を踏まえた方針整理、今後の補強・建て替えの検討支援まで、ワンストップでサポートしています。構造設計に特化したエンジニアが、稼働中の工場・物流倉庫ならではの制約も踏まえ、中立的な立場で最適な進め方をご提案します。図面や検査済証が見当たらない場合でも、ご対応が可能です。

「まずは自社の工場・倉庫が耐震診断を検討すべきか知りたい」「どこから手を付けるべきか整理したい」といった段階からご相談いただけますので、気になる建物がありましたら、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。

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