ホテル・旅館の耐震診断をした方がいいのか分からないまま、なんとなく先送りにしていませんか。 本記事では、旧耐震基準かどうかを確認する方法や診断の進め方など、まず何から確認すると良いかを解説します。 ホテル・旅館の状況を把握するところから、一緒に確認していきましょう。
ホテル・旅館で耐震診断が求められる背景と現状
まずは、ホテル・旅館の耐震診断がなぜ今求められているのか、その背景と現状を解説します。
耐震改修促進法と宿泊施設の位置づけ
ホテルや旅館で耐震診断に大きく関係しているのが「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」の改正です。 2013年の改正以降、旧耐震基準で建てられた大規模なホテル・旅館などの宿泊施設は、「要緊急安全確認大規模建築物」に区分され、一定の条件を満たす場合に、耐震診断の実施と結果の報告・公表が求められるようになりました。
宿泊施設は、不特定多数が滞在し、災害時には一時的な避難場所として利用されることも多い建物です。 そのため、事務所ビル以上に、地震時の安全性と継続的な利用ができることが重視されています。
ホテル・旅館の耐震化率と地震のリスク
国土交通省の資料によると、旧耐震基準で建てられた建物のうち、ホテル・旅館を含む「特定建築物」には、いまだ耐震診断や改修が済んでいないものが一定数残っています。 大規模建築物では対応が進んでいる一方で、義務対象外となる中小規模のホテル・旅館や地方の宿泊施設では、旧耐震基準のまま使われている可能性が少なくありません。
また、耐震診断が義務付けられている対象の建築物全体で見ると、2024年3月末時点での耐震化率は71.6%にとどまり、目標とされる水準にはまだ届いていないことが国の調査で明らかになっています。 一方で、要緊急安全確認大規模建築物においては、耐震化率は92.5%と高水準に達していることも示されています。 つまり、「義務対象の大規模建物はかなり進んでいるが、それ以外の建物には耐震性に課題が残っている」というのが現状です。
旧耐震基準のホテル・旅館が地震で被害を受けると、次のような影響が重なります。
- 建物や設備の損傷による長期休業
- 宿泊客・従業員の人的被害
- 風評や予約キャンセルによる収益悪化
耐震診断は単なる義務ではなく、宿泊客の安全と、自社のBCP(事業継続計画)の土台となる重要な対応です。
<参照>
建築物の耐震化の指標等について(国土交通省)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001843016.pdf
宿泊施設における耐震化の状況について(国土交通省資料内)
https://www.mlit.go.jp/kankocho/seisaku_seido/kihonkeikaku/jizoku_kankochi/kankosangyokakushin/saiseishien/content/001478971.pdf
ホテル・旅館に耐震診断が必要か確認する方法
本章では、「うちのホテル・旅館は耐震診断を検討すべきか?」を確認する方法を整理します。
建築確認申請日から旧耐震かどうかを確認する
まず最初に確認するのは、建物が旧耐震基準かどうかです。建築基準法に基づく耐震基準は1981年(昭和56年)に見直されており、一般に、
- 昭和56年5月31日以前に建築確認申請を行った建築物:旧耐震基準
- 昭和56年6月1日以降に建築確認申請を行った建築物:新耐震基準
とされています。「築年数」だけではなく、建築確認申請日を確認することが重要です。
階数・延床面積など規模要件を確認する
次に、建物の規模と用途を確認します。耐震改修促進法では、旧耐震建築物のうち、一定規模以上で多数の者が利用する用途に分類される建物は、「要緊急安全確認大規模建築物」として位置づけられ、耐震診断の実施と結果の報告・公表が求められる場合があります。
詳細な条件は自治体条例などで異なりますが、次の3点を確認しましょう。
- 階数
- 延床面積
- 建築用途(ホテル・旅館など不特定多数の者が利用する用途かどうか)
とくに、客室数が多い中規模〜大規模の宿泊施設や、宴会場・大浴場・ロビーなど、大人数が同時に利用する空間を有する建物は、要緊急安全確認大規模建築物等に該当する可能性があるため、早めに専門家へ相談し、自社のホテル・旅館がどの区分にあたるのかを確認しておくと安心です。
建築確認・検査済証など一次情報で現状を把握する
次に、ホテル・旅館の建物の情報を確認します。耐震診断が必要か判断する際にも、実際に耐震診断を進める際にも、以下の資料が重要になります。
建築確認済証(確認済証)
建築確認の内容(確認年月日、延床面積、用途・規模・構造種別など)を確認します。※建築確認申請日そのものは別資料で確認する場合もあります。
検査済証
建築基準法に適合した状態で竣工したことを示す公的書類です。完了検査の有無は、その後の手続きや評価にも関わるため、所在を確認しておきましょう。
設計図書(意匠図・構造図など)および構造計算書
構造種別(RC造・S造・SRC造など)、壁・柱の配置、増改築の有無などを把握できます。これらの図書が揃っていると、より正確に耐震診断を行うことができます。
建築台帳記載事項証明書・建築計画概要書
確認済証や検査済証が見当たらない場合に使用します。所管行政庁の窓口で取得可能です。
これらの資料を揃えておくことで、自社のホテル・旅館の建築時の状況および、その後の増築・用途変更などの状況を把握することができます。
ホテル・旅館の耐震診断の進め方|流れと図面
本章では、実際に耐震診断を行う場合の大まかな流れと、事前に準備しておきたい図面について解説します。
耐震診断の流れ
ホテル・旅館の耐震診断は、一般的に次のような流れで進みます。
予備調査(ヒアリング・資料の確認)
建築確認済証や設計図書(意匠図・構造図)、過去の増築・用途変更の有無、設備更新や大規模改修の履歴などをもとに、建物の現状と図面に差異がないかを確認し、現地調査のための準備を行います。
現地調査
柱・梁・ブレース・壁の配置や劣化状況、接合部の状態などを目視で確認し、必要に応じて仕上げを一部はがして構造を確認したり、コンクリート強度の測定のためにコンクリートのコア抜きや非破壊調査などを行います。
耐震性能評価
「現状の耐震性能がどの程度か」をIs値(構造耐震指標)などを用いて整理します。
今後の方針整理
耐震補強・用途変更・建て替えなどの必要な対策の優先順位や、耐震補強設計・建て替えを含めた今後の選択肢を検討していきます。
事前に揃えておきたい図面
耐震診断をスムーズに進めるために、事前に図面を準備します。とくにホテル・旅館では、増築や改修を繰り返していることも多いため、以下の資料を可能な範囲で揃えておきましょう。
意匠図一式
配置図、各階平面図・立面図・断面図・客室配置 など
構造図一式
各階床伏図・梁伏図・基礎伏図・軸組図・耐力壁配置図・配筋詳細図 など
構造計算書
新築時および増築時の構造計算書
過去の改修・増築に関する設計図書
エレベーター増設、客室リニューアルなどを行っている場合は、その際の図面・仕様書
これらの図面から建物の状況を正確に把握できるため、耐震診断の精度向上にもつながります。
図面や構造計算書がない場合の対応
ホテル・旅館では、築年数が古い建物ほど、図面や構造計算書を紛失しているケースも少なくありません。その場合、まずは、建築確認関係書類などがないか新築時の設計事務所や施工会社などに問い合わせを行います。それでも不十分な場合は、現地で実測して現況図を起こしたり、追加調査を行い、可能な範囲で耐震性能を評価していきます。
図面や構造計算書がない場合、調査の手間や期間が増えることはありますが、「資料がないから耐震診断ができない」というわけではありません。図面の有無や建物の状況に応じて、調査内容を検討する必要があるため、早い段階で耐震の専門家に相談し、方針を検討しましょう。
診断結果を踏まえた基本的な検討
耐震診断では、建物の耐震性能をIs値(構造耐震指標)などを用いて評価します。その結果、
- 現状のまま継続利用できるか
- 一部または全体の耐震補強が必要か
- 中長期的に用途変更や建て替えを視野に入れるべきか
が明らかになります。優先度の高い箇所から段階的に対策を検討しましょう。さらに、
- 想定する地震動に対して、どの程度の損傷が見込まれるか
- 一部フロアの使用制限や、休業の可能性がどの程度あるか
といったBCP(事業継続計画)観点で、避難計画や代わりとなる施設の確保、予約・取引先への対応方針と合わせて整理することで、ホテル・旅館の「安全確保」と「事業継続」を両立した耐震化の計画を検討しやすくなります。
さくら構造の「リボビル」では、ホテル・旅館などの宿泊施設について、
- 耐震診断が必要かどうかのご相談・簡易見積り
- 診断結果を踏まえた耐震補強設計のご提案
- コンバージョンを含めた不動産再生のご提案
などワンストップでサポートします。図面や確認済証が揃っていない場合でも、対応可能です。
「まず自分のホテル・旅館の状況を整理したい」
「診断結果をどう活かせばよいか迷っている」
といった段階でも、現状に合わせた進め方をご提案します。お気軽にお問い合わせください。

