ビルの耐震診断をした方がいいのか分からないまま、なんとなく先送りにしていませんか。 とくに築年数の古い事務所ビル・テナントビルは、「旧耐震基準かもしれない」「地震が来たら大丈夫か」と不安を抱えながらも、どこから手をつければよいか分からないケースが多いです。
本記事では、ビルの耐震診断が求められている背景から、耐震診断が必要になりやすいビルの特徴、耐震診断の流れ、診断後に検討すべき選択肢までを整理します。 「やるべきかどうか」「どう進めればよいか」お悩みのビルオーナー・管理会社の方向けに解説します。
なぜ今、ビルの耐震診断が求められているのか
日本は世界有数の地震多発国で、事務所ビルやオフィスビルも繰り返し地震動の影響を受けています。 新耐震基準で設計された建物であっても、長年の使用による劣化や増改築の影響で、本来の耐震性能が十分に発揮できない場合があります。 とくに1981年以前の「旧耐震基準」で建てられたビルは、大地震での倒壊・損傷リスクが相対的に高いとされており、行政から耐震診断や結果の報告が求められる対象に含まれる場合があります(※用途や規模によって異なります。)。
さらに近年は、ビルオーナー側だけでなくテナント企業の意識も変化しています。 BCP(事業継続計画)の観点から、「災害時にも安全に業務を続けられるオフィスかどうか」が入居先選びの条件に含まれるようになりました。
ビルの耐震診断は、「法律だから仕方なくやるもの」ではなく、テナント・従業員の生命を守り、信頼されるビルであり続けるための前提条件になりつつあります。
耐震診断が必要になりやすいビルの特徴と確認のポイント
自分のビルが耐震診断が必要なのかを確認するためのポイントや注意点をまとめました。
旧耐震か新耐震かを確認するポイント
ビル耐震診断の必要性を考えるうえで、まず押さえたいのが「旧耐震基準か新耐震基準か」です。目安になるのは、建築確認を受けた日付です。
一般的には、1981年(昭和56年)6月1日以降の新耐震基準に基づく建物は、大地震による倒壊・崩壊を防ぐことを目標にしています。 一方、それ以前に確認申請が出されたビルは旧耐震に分類される可能性が高く、耐震診断が義務となる可能性があります。
まずは、
- 建築確認通知書(確認済証)
- 検査済証
- 行政が発行する建築台帳記載事項証明書
などで「確認申請日」や「新築年月日」を確認してみましょう。これが、自分のビルに耐震診断が必要かどうかを考える第一歩になります。
<参照>
建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成七年法律第百二十三号)
https://laws.e-gov.go.jp/law/407AC0000000123
用途・規模・築年数から見る要注意パターン
次に、用途・規模・築年数からビルのリスクをざっくり整理しておくと判断しやすくなります。 例えば、以下のようなビルは耐震診断の検討優先度が高くなりがちです。
- 旧耐震の中高層オフィスビル(地上階数が多い)
- 多数の不特定多数が出入りするテナントビル・商業ビル
- 築年数がかなり古く、増改築を繰り返してきたビル
- エレベーターホールやピロティなど、1階に大きな開口部を持つビル
こうしたビルは、万が一のときの被害規模が大きくなりやすく、行政からも重点的に耐震化が求められるカテゴリに入りやすいです。 「うちのビルも条件に当てはまりそうだ」と感じたら、早い段階で耐震診断の検討を始めておくと安心です。
<参照>
特定既存耐震不適格建築物について・大規模建築物(要緊急安全確認大規模建築物)の耐震診断結果の公表
https://www.pref.osaka.lg.jp/o130040/kenshi_kikaku/kikaku_bousai/daikibo.html
確認済証・検査済証・図面がない場合の調べ方
よく問題になるのが、「昔のビルで書類や図面が見当たらない」というケースです。 確認済証や検査済証などの書類を紛失してしまった場合には、耐震診断を行うことは可能ですが、手間や時間は増えてしまいます。
確認済証、検査済証、図面がない場合は、まず
- 行政窓口での建築台帳記載事項証明書を取得する
- 当時の設計事務所・施工会社・不動産会社・管理会社へ照会する
- 法務局での登記事項証明書から情報をたどる
といった方法を試してみましょう。構造種別や確認年月日、規模など、耐震診断の前提になる情報を整理しやすくなります。
耐震診断の経験が多い構造設計事務所に相談すれば、不足している資料集めの段階から並走してもらうことも可能です。
ビルの耐震診断の進め方
ビルの耐震診断は、「申し込んだら結果がすぐわかる」ものではありません。 事前の資料準備から現地調査、解析・報告まで一連の流れがあります。 全体の流れを把握しておくと、テナントへの説明や社内の調整も行いやすくなり、余計な不安や行き違いを減らすことができます。
診断前に準備しておきたい資料と情報
ビルの耐震診断は、まずはオーナー・管理会社からのヒアリングと既存資料の確認が行われます。
この段階で、
- 建築確認関係の書類(確認済証・検査済証・台帳記載事項証明書など)
- 構造図・意匠図・設備図
- 増築・改修の履歴が分かる資料
を可能な範囲で揃えておくと、耐震診断の精度と効率が大きく向上します。資料が揃わない場合は、どこまで分かっているのかを整理し、専門家と相談しながら不足する内容を補っていきます。
現地調査の進め方とテナント営業への影響
次に現地調査では、ビルの外観・共用部・一部の専有部などを目視し、ひび割れや劣化状況、増改築の有無などを確認します。必要に応じて、仕上げ材の一部をはがして下地を確認したり、非破壊検査機器を用いた調査を行うこともあります。
多くの場合、調査は短時間の立ち入りで対応できるため、テナントの営業を長期間止めることなく進められます。ただし、室内側の構造を確認する必要がある場合は、テナントとの事前調整が欠かせません。
オーナー・管理会社・構造設計事務所の三者で「どの範囲まで確認するか」「営業時間中の騒音・人の出入りをどう抑えるか」をすり合わせておくことで、トラブルを防ぎながら耐震診断を進めることができます。
耐震診断の進め方
ビルの耐震診断は、一般的に次のような流れで進みます。
-
予備調査(ヒアリング・資料の確認)
建築確認済証や設計図書(意匠図・構造図)、過去の増築・用途変更の有無、設備更新や大規模改修の履歴などをもとに、建物の現状と図面に差異がないかを確認し、現地調査のための準備を行います。 -
現地調査
柱・梁・ブレース・壁の配置や劣化状況、接合部の状態などを目視で確認し、必要に応じて仕上げを一部はがして構造を確認したり、コンクリート強度の測定のためにコンクリートのコア抜きや非破壊試験を行ったりします。 -
耐震性能評価
「現状の耐震性能がどの程度か」をIs値(構造耐震指標)などを用いて整理します。 -
今後の方針整理
耐震補強・用途変更・建て替えなどの必要な対策の優先順位や、耐震補強設計・建て替えを含めた今後の選択肢を検討していきます。
耐震診断後に検討したい選択肢と相談先
耐震診断の結果で見えてきたリスクや建物の状態を踏まえ、「このビルをこれからどう活かしていくか」を決めなければなりません。選択によってメリット・デメリットや関係者への影響は異なります。
補強・改修・建て替え・コンバージョンという主な選択肢
ビルの耐震診断が終わると、多くの場合「そのまま使用を続けるか」「耐震補強・改修を行うか」「建て替えや用途変更を検討するか」といった選択を迫られます。
代表的な選択肢としては、次のようなものがあります。
- 構造躯体を補強し、現状の用途・規模のまま長期使用する
- 耐震改修と合わせて内装・設備も更新し、ビルの競争力を高める
- 老朽化が進んでいる場合は、建て替えや規模・用途変更(コンバージョン)も視野に入れる
どの選択肢が適切かは、診断結果だけでなく、
- ビルの立地や入居テナントの状況
- 今後の保有方針(長期保有か売却前提か)
- エリアの需要動向
などによって変わります。大切なのは、「耐震診断をしたけれど結局何もしない」ではなく、ビル経営全体の戦略と結びつけて次の一手を検討することです。
相談先の選び方
耐震診断後の方針検討では、「誰に相談するか」も重要です。
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自治体の耐震相談窓口
耐震診断・耐震改修に関する制度や、助成の有無、条例で定められた義務の内容など、公的な情報を確認するのに適しています。 -
構造設計事務所・建築士事務所
ビルの構造に精通した専門家として、耐震診断の妥当性や補強方法の選択肢について、中立的な立場からアドバイスが得られます。「どの程度の水準まで補強すべきか」「営業を止めずに工事できるか」といった実務的な相談も可能です。 -
さくら構造「リボビル」
さくら構造が提供する「リボビル」は、ビルの耐震診断・補強設計だけでなく、その後の改修計画や不動産再生(コンバージョン・用途変更など)まで、一気通貫で伴走するサービスです。
「旧耐震のビルをこの先どう活かすか」「耐震性と収益性を両立させたい」といったテーマを、構造と不動産の両面から検討できます。図面や確認済証・検査済証が見当たらない場合でも、資料収集の段階からサポートが可能です。
ビルの耐震診断はゴールではなく、「ビルを安全かつ価値ある資産として使い続けるためのスタート」です。
どこから手をつけたらよいか迷われているビルオーナー・管理会社の方は、まずはビルの用途・規模・築年数など分かる範囲の情報を整理して、「リボビル」へご相談ください。
耐震診断の要否から、今後の進め方まで、耐震の専門家が中立的な立場でご提案します。

