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耐震コラム

建て替えと一棟リノベーション|老朽化ビル・マンションは新築と大規模改修どっち?判断軸

建て替えか、一棟リノベーション(大規模改修)か、老朽化したビル・マンションで判断を誤ると、工事費だけでなく、賃料収入の空白期間や将来の出口戦略まで含めて損失が大きくなる可能性があります。また、旧耐震基準や既存不適格の場合は、建て替えられないケースもあります。

本記事では、非木造のビル・マンションの建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)の違いや、費用・工期・キャッシュフロー、耐震性・法規制、事業性の違いまで整理します。まずは、あなたの建物がどちらに向く条件なのか、判断材料を揃えるところから始めましょう。

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建て替えとリノベーションの違い

老朽化したビルやマンションの「建て替え」と「一棟リノベーション(大規模改修)」の違いを整理します。

ビル・マンションの「建て替え」とは?老朽化ビルを更地にして新築する選択肢

ビル・マンションの建て替えとは、既存建物をいったん解体し、更地の状態から新たに建物を建て直すことを指します。老朽化が進んだ事務所ビルやマンションを解体し、最新の建築基準・設備仕様に合わせて建て直します。

建て替えの大きなメリットは、構造・間取り・設備・外観デザインを一から設計し直せるため、計画の自由度が高いことです。耐震基準を満たした構造計画や、省エネ性能の高い設備、現在のニーズに合った間取りや共用部計画(ワークスペース、ラウンジ、トランクルームなど)を盛り込みやすくなります。

「老朽化したビルを生まれ変わらせたい」「現行の容積率・斜線制限等の範囲で延床面積を増やしたい」といった場合は、建て替えが検討されます。

一方で、既存建物の解体費、新築工事費、設計費、仮移転・テナント退去対応など、初期費用が大きくなりやすいことも建て替えの特徴です。また、工事中は入居者が利用できない期間が発生し、その間の賃料収入が途切れてしまうため、事業計画上の懸念が残ります。

一棟リノベーション・大規模改修とは?既存躯体を活かして再生する選択肢

一棟リノベーション(大規模改修)は、既存の躯体(柱・梁・耐力壁などの構造体)を活かしながら、建物全体を再生する方法です。老朽化したビルやマンションに対して、以下の「改修・再生」を一体的に行い、築年数は古くても中身は現代仕様のビル・マンションとして再生します

  • 耐震補強や構造補修
  • 給排水・電気・空調などの設備更新
  • 内装・仕上げの刷新
  • 共用部(エントランス、廊下、EVホール等)のグレードアップ
  • 用途変更(コンバージョン)や間取り変更

建て替えと異なり、既存躯体を残すため柱と柱の距離や延床面積は大きく変えにくいものの、解体して新築する場合と比べると、工事範囲を絞ることで、総コストを抑えられる可能性があります。また、工事の進め方を工夫すれば、フロアごとに改修したり、テナントの入れ替えタイミングに合わせた段階的な工事とすることも可能で、事業を継続しながら建物の価値を高めていけるのがメリットです。

また、一棟リノベーション(大規模改修)では、老朽化した築古ビル・マンションでも、デザイン性の高い内装やニーズに合ったプランを取り込むことで、耐震性・設備・内装・外装を改善し、収益不動産としての競争力を高められる可能性があります。

建て替えとリノベーションの費用・工期・事業への影響を比較

建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)は、「いくらかかるか」「どのくらい時間がかかるか」「その間の事業がどうなるか」という点が大きく異なります。本章では、費用と工期・事業への影響について整理します。

費用と工期の違い|解体・新築と一棟リノベ

建て替えは、既存建物を解体して更地にし、新しいビル・マンションを建設する方法です。解体費・新築工事費・設計費・原状回復費用などが一度に発生するため最初にまとまった費用がかかりやすいのが特徴です。構造・設備・意匠を一新できる反面、工事期間中に全館退去となる場合、賃料収入が大きく減少する可能性があります。

一棟リノベーション(大規模改修)の場合も、工事規模によっては相応の費用が発生しますが、既存の躯体を活かすことで解体・新築に比べて工事項目を絞り込みやすく、段階的に工事を進めることも可能です。

建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)のどちらが適しているかは、建物の劣化状況や法規制、テナントの入れ替えサイクルなどによって変わってきます。

キャッシュフローと投資回収

ビル・マンションのオーナーにとって重要なのは、「投資額」と「将来のキャッシュフロー」です。建て替えか一棟リノベーション(大規模改修)かを検討するときも、単に工事費を比較するだけでなく、以下の点などを総合的に評価する必要があります。

  • 工事中の賃料収入がなくなる期間
  • 工事後に見込める賃料アップ・入居率の改善
  • 投資額を何年で回収できそうか

建て替えの場合、工事期間中は原則として全館が利用できなくなるため、一定期間、賃料収入がストップするリスクがあります。その代わり、完成後は「新築ビル・新築マンション」として市場に出せるため、賃料水準や売却価格の上振れを期待しやすくなります。

一棟リノベーション(大規模改修)の場合は、工事計画によっては、テナントの入れ替え時期に合わせてフロアごとに改修したり、入居者が少ない棟から先に工事を進めるなど、既存の賃料収入を維持しながら段階的に投資していくことも可能です。工事後は、設備・内装・共用部のグレードアップによって賃料単価や入居率の改善を目指すことになりますが、建て替えのように「新築ブランド」が付くわけではないため、想定賃料の設定にはエリア相場や競合物件の調査が欠かせません。

このように、建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)ではキャッシュフローの形が異なります。工事費比較だけでなく、建物の寿命や出口戦略も含めた投資回収のシミュレーションを行うことが重要です。

耐震性・法規制から見た建て替えとリノベの違い

建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)をどちらにするか検討する際は、「コストと収益性」だけで判断するのは注意が必要です。
現在の基準で同じ規模・用途の建物に建て替えられるのか、あるいは既存建物を補強しながら使い続けるべきなのかは、耐震性と法規制によって大きく左右されます。

ここでは、老朽化したビル・マンションで押さえておきたい耐震・法規制のポイントを整理します。

旧耐震基準・要緊急安全確認大規模建築物の耐震性のリスク

まず確認したいのが、自分のビル・マンションが「旧耐震基準」か「新耐震基準」かです。

  • 一般的に、1981年(昭和56年)6月1日以前に建築確認を受けた建物は、旧耐震基準で設計されている可能性があります。
  • 旧耐震基準と新耐震基準では、想定する地震動や設計の考え方が異なります。新耐震基準の導入以降は大地震時の安全性をより重視する方向で基準が整備されており、旧耐震基準の建物は大きな地震で倒壊・崩壊するリスクが相対的に高くなる可能性があります。

とくに、一定規模以上の病院、百貨店、ホテル、共同住宅など、多くの人が利用する旧耐震基準の建物は、耐震改修促進法に基づき「要緊急安全確認大規模建築物」に該当し、耐震診断と所管行政庁への報告が義務付けられる場合があります。こうした建物は、地震時の安全性の観点から、優先的に耐震性の確認と対策が必要となる可能性が高いです。

旧耐震のビル・マンションは、現在の基準を満たしていない可能性があり、テナント・入居者・利用者の安全だけでなく、事業継続(BCP)や対外的な信用にも影響します。また、耐震診断を行わないと、実際にどの程度の耐震性能があるのか、どのような耐震補強設計が必要か分からないため、建て替えかリノベか、どちらが適切か判断するのが難しくなります。

建物の寿命を把握するためにも、旧耐震基準の可能性があるビル・マンションでは、早い段階で耐震診断を検討することをおすすめします

<参照>
「建築物の耐震改修の促進に関する法律」についてはこちら

建て替えが難しい既存不適格・再建築不可の場合

次に重要なのが「今と同じ規模で、建て替えが可能か」という法規制の観点です。

現在は問題なく使えているビル・マンションでも、以下の場合、建築当時は適法だった建物が現行の建築基準法や関連条例を「完全には満たしていない状態」になっている可能性があります。

  • 用途地域の変更
  • 建ぺい率・容積率の変更
  • 道路や斜線制限などの規制の強化

これが、いわゆる「既存不適格建築物」です。

既存不適格建築物は、今と同じ規模・形で新しく建てることができない場合があり「延床面積を減らさざるを得ない」「階数や建物の規模を小さくしないといけない」といった制約が生じることがあります。

さらに、接道要件を満たさないことで建築基準法上、原則として再建築が制限されるケースがあります。この場合、「解体して新築する」こと自体が極めて難しくなります。

こうした「建て替えが難しい」ビル・マンションでは、耐震診断を実施し、必要な耐震補強を行ったうえで、設備更新・内装刷新・用途変更などを組み合わせた一棟リノベーション(大規模改修)で再生を図ることが考えられます。

ただし、大規模な増改築や用途変更を行う際には、計画内容により所管行政庁との事前相談や、建築確認を要する可能性があります。

耐震性と法規制の両方を整理してみると、「建て替えで規模を大きくできるビル」と「建て替えると規模が縮小する、あるいは建て替え自体が難しいビル」に分かれます。建て替えが難しい場合は、耐震補強と一棟リノベーション(大規模改修)で既存建物をどう活かすかを検討しましょう。

建て替えかリノベーションか迷ったときの判断軸と進め方

建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)では、費用や工期だけでなく、「将来どれだけ安定して収益を生むか」「災害時も事業を止めないか」「環境性能をどう高めるか」などを比較し、判断するために必要な情報を揃えることが重要です。

収益性・ESG・BCPの違い

まずは、建て替え・一棟リノベーション(大規模改修)を収益性、ESG、BCPという「事業性」の観点で比較します。

収益性

収益性(賃料・空室・出口)の観点では、建て替えは新築として市場に出せるため、立地と需要が合えば賃料設定や空室リスクの面で優位になりやすい一方、初期投資が大きくなりがちです。一棟リノベーション(大規模改修)は、新築ほどの上振れは見込みにくい場合があるものの、改修内容を絞って「必要なところに投資する」設計ができれば、賃料単価や入居率の改善で収益の底上げを狙えます。どちらが有利かは、周辺相場・競合物件・想定する入居者(テナント)によって変わるため、出口戦略まで含めて検討することが大切です。

ESG

次に、ESG(環境負荷・省エネ)の観点です。一棟リノベーション(大規模改修)は既存躯体を活かすことで、解体による廃材発生や新規材料の投入を抑えられる可能性があり、ストック活用として評価されやすい側面があります。一方、建て替えは最新の省エネ設備や断熱仕様を採用しやすく、長期的なランニングコストや環境性能を高めやすいのが特徴です。環境への配慮は、金融機関や投資家から重視される傾向があります。

<参照>
「不動産業界における建築物のライフサイクルカーボン算定・評価等の取組」はこちら

BCP

最後に、BCP(事業継続性)です。地震後に建物が使えない状態になると、賃料収入だけでなく、テナントの営業や入居者の生活、対外信用にも影響します。建て替えは非常用電源・給水・通信などのバックアップも含めた計画を立てやすい一方、一棟リノベーション(大規模改修)でも耐震補強と設備更新を組み合わせることで、事業継続性を高められる可能性があります。

行政・金融機関・専門家への相談

建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)のどちらにするか判断するには、耐震・法規・資金・事業計画が絡むため、内容に応じて相談します

まず、法規制や手続きの見通しは、所管行政庁へ確認します。既存不適格に該当する可能性、用途変更や増改築に伴う協議の要否、建築確認申請の要否など、早めに相談して整理しておくと、後戻りが少なくなります。

次に、資金面は金融機関に相談します。建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)では投資額や返済計画、収益の立ち上がりが異なるため、投資回収の前提やリスクを整理したうえで相談することが重要です。

そして、構造設計・不動産再生の専門家に相談します。耐震診断で建物の状態と課題を把握し、必要な補強の方向性を定めたうえで、建て替えと一棟リノベーション(大規模改修)の事業性を比較できるように整理しましょう。

さくら構造の「リボビル」では、ビル・マンションの耐震診断から補強設計、耐震改修、さらには不動産再生まで、ワンストップでサポートしています。

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