ビルの解体費用が「いくらかかるのか」「本当に解体すべきなのか」が分からないまま、検討が止まっていませんか。 とくにRC造・S造・SRC造のビルは、坪単価だけでなく、構造・規模・立地条件、アスベストや産業廃棄物の処理費用、解体期間中の賃料損失など、見えにくいコストが多く絡み合います。
本記事では、ビルの解体費用の相場と内訳、見落とされやすい周辺コスト、環境負荷・ESGの観点、そして「解体・建て替え」と「既存ビル再生」を比較して判断するためのポイントを、構造の専門家の視点から整理します。
ビルの解体費用はどう決まる?RC造・S造・SRC造の相場
ビルの解体費用は坪単価だけではなく、構造種別・階数・立地条件・工法など、複数の要素が絡み合って決まります。ここではまず、RC造(鉄筋コンクリート造)・S造(鉄骨造)・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)といった構造種別ごとの費用と、見積りの内容が適正かを判断するためのポイントを整理します。
RC造・S造・SRC造ビルの解体費用の相場と坪単価
一般的に、ビルの解体費用は木造が安く、SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)が高くなる傾向があります。構造躯体が重く、頑丈になるほど、壊す手間と廃材処理の手間も増えるからです。
RC造・S造・SRC造のビルの解体では、目安として次のような坪単価がよく挙げられます。
(※地域や条件により変動します)
- RC造(鉄筋コンクリート造)の場合:おおよそ 12〜16万円/坪 前後
- S造(鉄骨造)の場合:おおよそ 10〜14万円/坪 前後
- SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)の場合:おおよそ 15〜20万円/坪 程度
同じRC造(鉄筋コンクリート造)のビルでも、たとえば以下のような条件で費用は変動します。
- 低層(2〜3階)か、中高層(5〜10階)か
- 延床100坪程度の小規模ビルか、数百坪の中規模ビルか
- 1フロアが広い箱型か、複雑な形状か
また、アスベスト調査・除去費用や産業廃棄物の処理費用、仮設・整地費用などが加算される場合がありますので、業者から提示される見積書の内容には注意が必要です。
「見積書の金額が高いのか安いのか分からない」という場合は、まずは自分のビルの構造種別と延床面積を整理し、坪単価ベースで相場と大きくズレていないかを確認しましょう。
規模・立地条件・工法で費用が上下する主なポイント
同じRC造(鉄筋コンクリート造)・S造(鉄骨造)・SRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)のビルでも、条件次第で解体費用が数百万円単位で変わる場合があります。解体費用が変動する主な要因は、次の3つです。
1. 規模・高さ(階数)
延床面積が大きくなるほど、当然ながら解体に必要な日数・人員・重機が増えます。
同じ延床面積でも、足場や養生、重機の使い方が異なります。特に中高層ビルは、上階から順番に解体する必要があり、作業手順が複雑で安全対策も増えるため、低層ビルより割高になる傾向があります。
2. 立地条件(前面道路・周辺建物・搬出経路)
前面道路の幅員が狭く、大型重機やダンプが入りにくい場合は、小型重機・小型車両での運搬回数が増えるため、単価が上がりやすくなります。隣接建物との距離が近い密集地では、養生シート・防音パネルの増設や手作業の増加など、近隣への安全・騒音・粉じん対策が増える分、コストが上乗せされやすくなります。また、都心部のように搬出時間帯の制限があるエリアでは、作業可能時間が短くなり、その分の人件費がかさむという影響も出ます。
3. 工法・仮設条件(足場・養生・重機の使い方)
解体方法によって、必要な重機・人員・工期が変わります。
高さのあるビルでは、全面足場・養生シート・防音パネルなどの仮設費用が大きな割合を占めます。鉄骨量やコンクリート量が多い建物ほど、解体時の切断・破砕の手間や発生する廃材の運搬・処理量が増え、結果的に解体費用も膨らみます。
以上のように、ビルの解体費用は坪単価だけではなく、規模・立地・工法といった条件に大きく左右されます。
見落とされやすい解体コスト
ビルの解体費用には、本体工事費以外にもさまざまなコストが発生します。とくに、アスベスト調査・除去や産業廃棄物の処理費用、解体期間中の賃料・営業損失・仮移転費といった項目は、解体費用の見積書で見落としやすい部分です。本章では、見落とされやすいビルの解体に伴うコストを整理します。
アスベスト調査・除去と産業廃棄物処理にかかる費用
一定規模以上の解体・改修工事では、アスベスト(石綿)含有建材の事前調査が法令で義務づけられています。RC造(鉄筋コンクリート造)・S造(鉄骨造)のビルの場合、外壁材や内装材、吹付け材などにアスベストが使用されている可能性があり、調査の結果、含有が確認されれば除去工事が必要です。
アスベストに関しては、主に次のような費用が発生します。
- 図面・現地目視・試料採取・分析を行う事前調査費用
- アスベスト含有建材を撤去し、特別管理産業廃棄物として処理する除去工事費用
- 養生・負圧集じん・作業員の保護具などの安全対策費用
これらは「解体工事一式」に含まれている場合もあれば、「アスベスト調査費」「アスベスト除去工事費」「石綿含有建材処分費」などの名称で個別に計上されている場合もあります。
また、ビルの解体では、発生する産業廃棄物の量と種類もコストに直結します。産業廃棄物の量が増えれば、運搬回数や、中間処理場・最終処分場への支払い、分別・積込みに必要な人件費も増え、結果として解体費用全体が膨らみます。
解体業者の見積書には、「産業廃棄物処分費」「廃材処理費」などの項目でまとめて記載されていることが多いため、詳細を可能な範囲で確認しておくと、追加費用の請求を防ぎやすくなります。

解体期間中の賃料・営業損失・仮移転費など間接コスト
ビルの解体では、「工事費」以外にもオーナー側のキャッシュフローに影響するコストが発生します。代表的なのが、次のような間接コストです。
賃料収入の減少・営業損失
賃貸ビルの場合、解体に伴いテナントに退去してもらう必要があり、その期間は賃料収入がゼロになります。自社ビルとして使っている場合も、解体〜建て替え期間中は自社オフィスとして利用できないため、その分の営業機会損失が発生します。
テナント・自社の仮移転費用
テナントが入っているビルでは、テナント側が仮移転するための工事費・引越し費用・内装原状回復などの費用負担が、条件によってはオーナー側に求められる場合もあります。自社ビルの場合も、仮オフィスや倉庫を別途借りなければなりません。
建て替え完了までの長い工期
解体後に建て替えを行う場合、解体工事から新築工事までの期間は、ビルとしての利用や賃貸ができません。たとえば、解体に数か月、新築に1年〜1年半かかるとすると、その間の賃貸収入や自社利用価値をどう見るかは、投資回収のシミュレーションに大きく影響します。
解体・建て替えを前提に検討している場合でも、解体工事費だけでなく、こうした間接的なコストまで含めた負担を整理することが、判断を誤らないために重要です。

<参照>
建設副産物の定義(建設廃棄物とは)【国土交通省】
https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/region/recycle/d01about/d0101/page_010201byproduct.htm
環境負荷の視点から見たビル解体のデメリット
解体費用や工事期間だけに目を向けていると見落としがちですが、ビルを一度壊して建て替えること自体が大きな環境負荷を伴います。建設廃棄物の発生やCO2排出は、SDGsの観点からも無視できません。本章では、建物のライフサイクルという視点からビル解体のデメリットを整理します。
建設廃棄物・CO2排出などの環境への影響
建物の環境負荷は、「建設時」「使用時」「解体時」に発生します。ビルを解体すると、長年かけて蓄積してきたコンクリート・鉄骨などの資源が、一度に「廃棄物」として排出されます。具体的には、
- 構造躯体・仕上げ材を壊す際の重機・車両の稼働
- 解体で発生したコンクリートがら・金属くず等の運搬
- 中間処理(破砕・選別など)や最終処分にかかるエネルギー
- 新築のための建材製造・輸送
といったプロセスごとに環境負荷が発生します。特にRC造(鉄筋コンクリート造)やSRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)のビルはコンクリートと鉄の量が多く、解体時の廃棄物やCO2排出も大きくなりがちです。一方、既存ビルを耐震補強やリノベーションで再生する場合、構造躯体を活かすことができ、新たに使用するコンクリート・鉄骨を大幅に減らせます。
建て替えと既存ビルの再生では、ライフサイクル全体で見たCO2排出量や廃棄物の発生量が大きく変わりうる、という点は覚えておきましょう。

「解体しない」という選択肢の広がり
近年は、投資家や金融機関によるESG(環境・社会・ガバナンス)評価や、企業のサステナビリティ方針が重視され、不動産・建築分野でも「ストック活用」「長寿命化」「ライフサイクルカーボンの削減」といった考え方が広がっています。ビルオーナーにとっても環境配慮は、投資家・金融機関からの評価向上や自社のサステナビリティレポートでの説明材料に使えるなどメリットも多いです。
その中で、「老朽化したビルを一度壊して建て替える」だけでなく、
- 既存躯体を活かしながら耐震性能を高める
- 設備更新・断熱改修で省エネ性を改善する
- 用途変更や内装リニューアルで収益性を高める
といった「解体しない再生」の選択肢も注目されています。もちろん、安全性や法規制、収支の観点から建て替えが妥当なケースもありますが、解体工事費・新築工事費や解体〜建て替え期間の営業損失、環境への影響まで含めて比較すると、「解体して建て替える」が唯一の正解とは限りません。
ビルの将来を検討する際は、建て替えだけではなく、「解体しない再生案」も含めて構造や不動産の専門家に相談してみることをおすすめします。

<参照>
不動産ストックに対する環境改修投資の促進に向けて
https://www.dbj.jp/topics/investigate/2023/html/20230606_204353.html
建築物のライフサイクルカーボン削減に関する関係省庁連絡会議【内閣官房】
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/building_lifecycle/index.html
解体・建て替えか既存ビル再生かを判断するポイント
解体・建て替えが向いているケースと、既存ビル再生の方が合理的なケースがあります。この章では、「老朽化=建て替え」と決めつけるのではなく、その見極め方と、判断前に整理しておきたい情報・相談の進め方を整理します。
解体・建て替えと既存ビル再生、それぞれが向いているケース
まずは、一般的に「解体・建て替えを検討しやすいケース」と「既存ビル再生が向きやすいケース」を整理します。
解体・建て替えが向きやすいケースの例
次のような条件が重なる場合は、解体・建て替えを前提に検討するケースが多くなります。
- 構造的な劣化・損傷が大きい
- 用途・規模を大きく変えたい
- 容積率を十分に使い切れていない
- 長期的な運用を見据え、ZEB取得や最新スペックの建物に入れ替えたい
このような場合は、既存ビルの制約を抱えたまま改修を重ねるよりも、建て替えた方が、中長期の収益・資産価値の両面で合理的になる場合があります。
既存ビル再生が向きやすいケースの例
一方で、次のような条件がそろう場合は、既存ビル再生を軸に検討する価値が高まります。
- 立地が良い
- 構造躯体の劣化が比較的軽微で、活かせる余地がある
- 初期投資を抑え、段階的にグレードアップしたい
- 長年入居しているテナントの退去や長期空室リスクを避けたい
このようなケースでは、構造躯体を活かした耐震補強と設備更新、リノベーションの組み合わせで、「安全性・快適性・収益性」をバランス良く底上げできる可能性があります。
専門家への相談の進め方と概算シミュレーションの活用
最終的な判断は、構造・法規・収益性など、複数の視点を踏まえて行うのがおすすめです。効率よく検討を進めるために、相談の流れを整理します。
1. 相談前に準備しておきたい資料
- 登記事項証明書(地番・床面積・権利関係の確認)
- 建築確認関係書類(確認済証・検査済証など)
- 設計図書(意匠図・構造図・設備図)
- テナント一覧(フロア構成・賃料・契約期間)
- 直近の収支資料(年間賃料収入・修繕費・管理費など)
これらが揃っていると、「解体・建て替え」「既存ビル再生」それぞれの概算コストと収支シミュレーションを比較検討しやすくなります。
2. 解体・建て替え案と再生案を概算で比較する
構造や不動産の専門家に相談するときは、最初から案を一つに絞り込むのではなく、解体・建て替えを行った場合と既存ビルを再生した場合の概算コスト・工期・賃料で複数パターンを比較してもらうのがおすすめです。
3. 自社の方針に合う案を絞り込む
最後に、オーナーとしての方針や制約条件を重ね合わせて、投資額と回収期間、リスク(空室・工事・資金繰り)、ESG・環境負荷への配慮、将来の売却可能性・出口戦略といった観点から、自社にとって現実的な選択肢を絞り込んでいきます。
このように、解体・建て替えと既存ビル再生を比較し、最適な選択を進めていきましょう。
| 解体・建て替え | 既存ビル再生 | |
|---|---|---|
| 初期投資 | 高い(解体費+新築工事費) | 低い(改修費のみ) |
| 事業リスク | 高い(長い工期、金利変動、市況変化) | 低い(短い工期、早期の賃料収入再開) |
| 長期的価値 | 最新スペックんびよる高い収益ポテンシャル | 既存ストック活用による効率的な価値向上 |
| ESG評価 | 建設・解体時の環境負荷が大きい | 資源の有効活用、CO2排出抑制で評価向上 |
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