日本のマンションは今、建物の老朽化だけでなく、修繕積立金の増大や所有者の高齢化・不明化といった複合的な課題に直面しています。 特に、建物の資産価値を回復させ、住民の安全を確保するための「再生」は、多くの管理組合にとって避けて通れないテーマです。
これまで、建て替えや大規模なリノベーションを進めるには、区分所有者および議決権の総数の「5分の4(80%)」という非常に高い同意が必要でした。 この高いハードルが、多くの再生計画を長年阻んできた原因です。
しかし、2026年4月施行予定の区分所有法改正により、再生への道筋が大きく変わります。 本改正の核心は、「耐震性不足」を客観的に証明できれば、決議要件が「4分の3(75%)」に緩和される点にあります。
この法的チャンスを最大限に活かし、「建て替えずに」経済的にマンションの価値を回復させるための「リボビル」を活用した一棟リノベーション戦略について、構造の専門的な知見を交えて解説します。
一棟リノベの道を開く「4分の3緩和」の法的要件と改正の背景
区分所有法の改正が、老朽化マンションの再生において最も画期的な変化をもたらすのが、この決議要件の緩和です。
再生を阻んできた「分母の壁」の解消
旧法における「5分の4の壁」の本当の課題は、反対住民の多さだけではありませんでした。所在不明の所有者や総会に参加しない所有者も分母に含まれていたため、再生を強く願う住民が賛成しても、物理的に賛成票が足りないという状況が多くのマンションで発生していました。
法改正の緩和規定は、決議に必要な賛成率(分子)を「4分の3」に下げるだけでなく、所在不明の所有者などを除外する「分母の是正」も同時に可能とします。これにより、再生を真剣に願う住民が主体となり、現実的な議論を進められる環境が整備されます。
決議のハードルを下げる「耐震性不足」の客観的証明
法改正のメリットである4分の3緩和を適用するためには、「単に建物が古いから」という主観的な理由ではなく、構造的な「耐震性不足」を客観的に証明することが必須条件となります。
その客観的根拠として専門的に用いられるのが、Is値(構造耐震指標)です。
Is値(構造耐震指標)とは?
地震に対する建物の「強さ」と「ねばり強さ」を総合的に評価し、大地震に対する倒壊の危険度を数値で示す指標です。このIs値が、あなたのマンションが法的メリットを享受できるかどうかの判断を分ける、最も重要な根拠となります。
Is値が示す「4分の3緩和」の適用可能性
Is値は、国が定める告示に基づき、以下の目安で建物の構造的な状態を評価します。
| Is値の目安 | 建物の状態(構造設計の観点) | 法改正との関連性 |
|---|---|---|
| Is値 0.6以上 | 現行の耐震基準を満たしており、倒壊の危険性が低い。 | 4分の3緩和の適用は難しい。 |
| Is値 0.3未満 | 大地震で倒壊または崩壊する危険性が高い(現行の特定行政庁の判定基準に相当)。 | 4分の3緩和の適用を検討できる、最も客観的な証拠となる。 |
このIs値が低い水準にあることが証明できれば、長年の課題であった「5分の4の壁」を突破し、再生計画を現実的な4分の3の合意で進めることが可能になります。
なぜ建て替えではなく「一棟リノベーション」を選ぶべきなのか?
決議要件の緩和は、「建て替え」と「一棟リノベーション」の双方に適用される方針ですが、管理組合の経済的負担と合意形成の難易度を考えると、一棟リノベーションに圧倒的な優位性があります。
経済的負担の大幅な軽減
建て替えは、解体から新築まで総費用が高額になりやすく、修繕積立金は充当できないため、区分所有者から高額な一時金を徴収することが避けられません。これが、建て替えが頓挫する最大の原因です。
一方、一棟リノベーションは、既存の躯体(柱・梁)を活かし、耐震補強と内装・設備の更新を同時に行う手法です。
- 費用と工期を大幅に抑制でき、建て替えと比較して実現可能性が高まります。
- 修繕積立金の活用も検討しやすく、住民の一時金負担を最小限に抑えることが期待できます。
構造的な安全性の確保と寿命の延長
一棟リノベーションは、単なる内装の改修ではありません。
- Is値が示す耐震性不足を解消する補強設計を核とすることで、構造的な安全性を最新の基準に引き上げます。
- 建物の躯体はそのままに、設備や内装を現代の住環境に合わせて一新するため、費用対効果が高く、経済合理的な選択肢として非常に優れています。
法改正の適用によって得られる合意形成の容易さと、建て替えと比較して費用を大幅に抑制できる経済性を考慮すれば、「耐震性不足を解消しつつ、費用を抑え、資産価値を復活させる」一棟リノベーションは、管理組合にとって最も現実的かつ合理的な判断となる場合が多いと言えます。
この法的チャンスを活かす戦略的な道筋として、一棟リノベーションの検討をおすすめします。
リノベ計画を始動させる最優先事項は「耐震診断」
「自分が住んでいるマンションは4分の3緩和の対象になるのか?」
「経済的な一棟リノベーションは可能なのか?」
という疑問を解決しなければ、管理組合の議論は一歩も進みません。
法改正のメリットを活かし、具体的な再生戦略を策定するための、最初にして唯一のステップは「法改正の判断基準を満たす耐震診断の実施」です。
耐震診断の3つの重要な役割
耐震診断は、単に建物の強度を測るためだけに行うものではありません。管理組合の再生戦略において、以下の重要な役割を果たします。
- 現状把握(客観的証拠の獲得):専門家による構造図面の解析と現地調査でIs値を算出し、倒壊危険度という客観的な証拠を取得します。
- 法的判断と合意形成:診断結果に基づき、4分の3緩和の適用が可能かどうかを検証。この客観的データが、住民合意形成のための強力な根拠となります。
- 再生計画の策定:診断結果から導かれる最適な耐震補強工法と、それに合わせたリノベーション設計方針を決定し、再生の概算費用を明確にします。
法改正施行(2026年4月)を待たずに今すぐ動くべき理由
耐震診断の実施から管理組合内での議論、外部コンサルタント選定、住民説明会を経て決議に至るまでには、最低でも数年単位の期間を要します。
法改正が施行される2026年4月には、緩和された要件で再生を目指すマンションが全国で一斉に動き出す可能性があります。 施行前に耐震診断結果という客観的な証拠を持っていなければ、議論のスタートラインに立つことすらできず、必要な専門家や工事が確保できずに、再生計画がさらに大幅に遅延する恐れがあります。 その間に大地震が発生すれば、耐震性不足のマンションは取り返しのつかないリスクを抱え続けることになります。
今すぐ耐震診断結果という客観的な証拠を持つことこそが、一棟リノベーションによる再生の好機を逃さないための最短ルートです。
まとめ|マンション再生は「構造」と「リノベーション」のリボビルにおまかせください
区分所有法改正は、老朽化に悩む管理組合にとって、長年の課題を突破し、資産価値を回復させる、またとないチャンスです。
このチャンスを掴む鍵は、Is値の客観的診断による法的根拠の確保と、その根拠に基づいた経済合理性の高い一棟リノベーションの実現にあります。
「リボビル」では、構造的な安全確保から、費用対効果の高いリノベーション設計、そして資産価値を高めるバリューアップ戦略までを、構造設計事務所としてワンストップでサポートします。区分所有法改正を機に、耐震補強とデザインによるマンション再生を実現したい管理組合様は、ぜひご相談ください。
リボビルは建物の再生だけでなく、耐震診断から補強工事まで一括対応。公共施設からマンション・戸建てまで、50種類以上の実績があります。
各区市町村において、耐震診断、耐震改修などに要する費用の一部を助成する補助金制度を設けている場合がありますが、リボビルは補助金を利用した耐震診断・補強工事にも対応が可能です。

