耐震コラム

マンションの耐震診断は必要?管理組合が確認すべき判断ポイントと進め方

マンションの耐震診断をした方がいいのか分からないまま、理事会で何となく話題にしては先送りにしていませんか。 築年数や旧耐震の不安はあっても、「まず何を調べ、どう住民に説明すべきか」が分からないと一歩を踏み出しにくいものです。 本記事では、マンションの管理組合が押さえておきたい、耐震診断を行うか判断するポイントとその進め方をご紹介します。 まずはご自身のマンションの状況整理から始めましょう。

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なぜマンションの耐震診断が今求められているのか

日本は世界有数の地震多発国で、阪神・淡路大震災や東日本大震災以降、住宅の耐震性が厳しく問われるようになりました。 特に高度成長期からバブル期に多く建設されたマンションが、現在、築40年以上となり、コンクリートや鉄筋の劣化、図面や検査済証の散逸などが問題になっています。

さらに、1981年の耐震基準改正前に建築確認を受けた「旧耐震基準」のマンションも一定数残っており、大地震時の安全性が十分とはいえない可能性があります。 この状況を踏まえ、国や自治体のガイドラインでは「まず自分のマンションの耐震性を把握すること」が管理組合に求められる役割のひとつと位置づけられています。

大地震時の安全性はもちろん、将来の売却・建て替え・大規模修繕の検討においても、耐震性に関する情報の有無がマンションの価値に大きく影響します。 そのため、マンションの管理組合には、「現状の耐震性を知る」という姿勢がこれまで以上に求められており、その具体的な手段として耐震診断が注目されているのです。

<参照>
国土交通省「住宅・建築物の耐震化について」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_fr_000043.html

自分のマンションに耐震診断が必要か判断するポイント

「うちのマンションは本当に耐震診断をすべきなのか?」を判断するためには、いくつかの基本情報を整理することが大切です。 ここでは、建築確認を受けた時期・規模や立地・劣化や過去の履歴の3点について整理します。 これにより、「今まさに耐震診断を検討すべき段階なのか」「次回の大規模修繕に合わせて検討すべきなのか」といった、おおよその目安が見えてきます。

新耐震か旧耐震かを確認する

1つ目のポイントは、建築確認を受けた時期です。

日本の建築基準法の耐震基準は、1981年(昭和56年)の改正を境に大きく変わっており、

  • 1981年6月1日以降に「建築確認」を受けた建物:新耐震基準
  • それ以前に「建築確認」を受けた建物:旧耐震基準

とされています。

ここで注意したいのは、「完成した年月日」ではなく、建築確認日(確認番号の年月日)で判断する点です。 建築確認申請日は、下記の資料で確認します。

  • 建築確認済証
  • 検査済証
  • 管理組合・管理会社が保管している設計図書一式
  • 役所で取得できる「台帳記載事項証明書」など

これらが見当たらない場合は、まず管理会社などに確認し、必要に応じて役所で建築台帳を閲覧する、といった対応が必要になります。 旧耐震基準の可能性が高いかどうかは、耐震診断の優先度を判断するうえで非常に重要です。

規模・立地条件からみる診断の優先度

2つ目のポイントは、マンションの規模・立地条件です。 同じマンションでも、以下のような条件にあてはまる場合は、自治体の方針や周辺環境との関係から、耐震診断の優先度が高くなる傾向があります。

  • 延床面積が大きい中高層マンション
  • 幹線道路や主要通りに面した「沿道建築物」
  • 不特定多数が出入りする共用施設を含むマンション

自治体によっては、一定規模以上の沿道建築物などに対し、耐震診断の実施や結果の公表を求める制度を設けている場合がありますので、注意してください。

劣化状況・過去の改修・診断履歴の有無

3つ目のポイントは、現在の劣化状況と、これまでどのような改修が行われてきたかです。 日常の管理や大規模修繕のなかで、次のような点を整理してみましょう。

  • 外壁に大きなひび割れやタイルの浮き・剥離がないか
  • コンクリートの欠け、鉄筋が露出している部分がないか
  • 共用廊下やバルコニーの床に、沈みや大きな段差がないか
  • 過去の大規模修繕で、構造躯体の補修・補強を行ったかどうか
  • 以前に耐震診断や耐震性調査を受けたことがあるか、その報告書が残っているか

もし「劣化が目立つが、耐震性をきちんと評価したことがない」「過去の診断書が見当たらない」場合は、早めに現状を把握しましょう。

<参照>
【一級建築士が解説】耐震性能の高い家を建てるために必要な建築知識|耐震基準と耐震等級
https://tsuyoku.jp/taishinseinounotakaiie/

管理組合としての進め方|情報収集と合意形成

「耐震診断をした方がよさそうだ」とわかったら、情報収集、管理組合から選ばれた役員で構成される理事会や専門委員会での検討、総会での決議の順に、段階的に進めましょう。

情報収集と専門家への相談

まず、管理会社や住民に協力してもらいながら、下記の建物の基本情報を収集します。

  • 建築確認年・構造種別(RC造・SRC造など)
  • 階数・戸数・延床面積
  • 過去の大規模修繕や補修履歴
  • 図面・構造計算書・検査済証の有無
  • 以前に耐震診断を受けたことがあるか、報告書の有無

そのうえで、構造・耐震に詳しい専門家に相談するのがおすすめです。 まだ正式な診断を依頼する前の段階でも、耐震診断の優先度や、想定される診断方法について、アドバイスをもらうことで、「耐震診断をすると何が分かるのか」を整理でき、理事会内の認識を揃えやすくなります。

理事会・専門委員会での検討

次に行うのが、理事会の場での本格的な検討です。専門家に相談して得られた情報や、建物の現状を踏まえながら、以下の点を整理していきます。

  • 地震時の安全性に関するリスク(倒壊・損傷・避難のしやすさ など)
  • 将来の売却・建て替え・大規模修繕に与える影響
  • 住民の不安や関心の度合い
  • 今すぐ診断すべきか、次回の大規模修繕に合わせるか

マンションによっては、「耐震問題検討委員会」「修繕委員会」などの専門委員会を設け、より詳細な調査や専門家との調整を委ねる場合もあります。

ここまでの検討を通じて、
「今回の総会で、耐震診断の実施を議案にかけるか」
「まずは追加調査やセカンドオピニオンを取ってからにするか」
といった方針を、理事会として明確にしておくことが重要です。

管理組合の総会での決議

耐震診断の実施には、通常、管理費や修繕積立金を使用することになるため、住民全員が集まる総会での決議が必要になります(※具体的な決議方法は管理規約をご確認ください)。

その際のポイントは、下記の3点です。

  • 背景と問題意識を丁寧に説明すること
    高経年化・旧耐震の可能性・劣化状況など、現状のリスクを整理し「耐震診断はマンションの状態を客観的に知るための取り組み」であることを伝えましょう。
  • 耐震診断で分かること・分からないことを明確にすること
    構造的な弱点や今後の選択肢がわかること、一方で「耐震診断をしただけで、安全になるわけではない」点も正しく共有しましょう。
  • 今後のスケジュールと住民への影響を説明すること
    耐震診断の実施時期・期間、共用部や専有部への立入の有無や、耐震診断の結果に関する説明会の開催予定などを伝えましょう。

総会で耐震診断の実施が承認された後は、専門家との正式な契約・詳細な日程調整へと進みます。

<参照>
東京都耐震ポータルサイト「分譲マンションの耐震化について」
https://www.taishin.metro.tokyo.lg.jp/proceed/topic02.html

耐震診断の専門家・業者選びで押さえたいポイント

マンションの耐震診断は、診断結果を踏まえた今後の方針決定まで長期間を要します。だからこそ、価格だけで選ぶのではなく、構造の専門性や説明力、中立的な立場を重視して業者を選ぶことが大切です。

構造の専門性・実績・中立性を確認する

まず確認したいのは、その業者がマンションの構造にどれだけ詳しいかという点です。

  • RC造・SRC造など、鉄筋コンクリート系構造の診断実績があるか
  • 分譲マンションの耐震診断や補強設計を、どれくらい手がけてきたか
  • 使用している診断基準や手法が、公的なガイドラインに沿ったものか

といったポイントを、実績紹介やヒアリングを通じて確認しましょう。

また、担当者の資格も目安になります。

  • 一級建築士/構造設計一級建築士
  • 実務経験年数
  • マンションや共同住宅を多く扱っているかどうか

など「構造の専門家がきちんと関与しているか」を確認しておくと安心です。

あわせて重要なのが、診断結果や提案内容が中立的であるかどうかです。 耐震診断を行う会社が、そのまま工事の受注も前提としている場合、どうしても工事ありきの提案になりがちです。 耐震診断の段階では、今のマンションの状態を客観的に評価し、耐震補強・建て替えなど、複数の選択肢を提示してくれる姿勢があるかどうかを確認しましょう。

説明力とコミュニケーション

もう一つの重要なポイントが、説明力とコミュニケーションのしやすさです。 耐震診断の報告書には、専門用語や数値が多く並びますが、住民の多くは建築の専門家ではありません。 管理組合としては、

  • 理事会向けに、内容をかみ砕いた説明資料を用意してくれるか
  • 総会や勉強会の場で、住民に直接説明してもらえるか
  • 専門用語を避け、分かりやすく話してくれるか

といった点を、事前の打ち合わせで確認しておくとよいでしょう。

また、耐震診断は一度で終わりではなく、長期間にわたってやりとりが発生します。質問に対するレスポンスの早さや、説明の丁寧さなどの“相性”も大切です。

耐震診断は、マンションの将来を左右する情報を得るための重要なプロジェクトです。 耐震構造の専門性を備えたパートナーを選ぶことで、管理組合としても安心して議論を進めることができ、その後の耐震補強や建て替えの判断にも納得感を持って臨むことができます。

さくら構造では、構造設計事務所として豊富な実績があり、マンションの耐震診断から補強設計、リノベーションまで対応しています。耐震診断のみのご相談も可能です。

マンションの安全性と将来の価値を守るために、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。

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