耐震コラム

旧耐震ビルの耐震補強費用はいくら?テナント入居中のモデルケースで解説

築年数の経過したビルを所有するオーナー様や資産管理担当者様にとって、耐震改修にかかる「費用」と「テナント対応」は、対策に踏み出せないハードルとなっています。特に近年は地震が多発しているため、万が一の事態を考えて早期に対策したい反面、立ち退き交渉や営業補償のリスクを恐れて現状維持を選ばざるを得ないケースもあります。

建物の構造や補強位置、テナントの業態によっては、テナントが入居したまま、営業への影響を抑えて耐震補強を進められる場合があります。本記事では、モデルケースとして延床4,000㎡クラスのビルにおける補強計画や概算費用相場、そしてオフィスビルの営業への影響を抑える方法について解説します。

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旧耐震ビルの耐震補強で問題になりやすい費用とテナント対応

旧耐震基準のビル(原則として1981年5月31日以前に建築確認を受けた建物)の安全性を確保しようと考えたとき、最初に頭をよぎるのは「建て替え」という選択肢です。しかし、昨今の建築資材の高騰や人手不足を背景に、中大規模のオフィスビルを解体・新築する場合、数十億円規模の投資が必要になる場合があります。これほどの巨額の資金を調達し、無収入期間に耐えるのは、個人オーナー様や中小企業にとっては極めて高いリスクを伴います。

そこで現実的な選択肢となるのが、既存ビルの骨組みを活かした「耐震補強工事」です。既存躯体を活かせるため、建て替えよりも費用を抑えやすい点がメリットです。

一方で、「工事の騒音でテナントからクレームや減賃交渉が来たらどうしよう」「そもそも入居したまま工事ができる工法はあるのか」という不安から、二の足を踏んでしまうオーナー様も多いですが、現代の建築技術と緻密な施工計画を用いれば、建物条件や施工計画によっては、テナントを立ち退かせずに耐震補強を進められる場合があります。

建て替え 耐震補強 現状維持
メリット 建物性能を一新できる 既存建物を活かしながら耐震性を高められる 短期的な支出を抑えられる
注意点 費用・工期・テナント退去対応の負担が大きい 騒音・振動・テナント調整が必要 地震リスク、売却・融資・テナント誘致で不利になる可能性
向いているケース 容積率活用や用途変更で収益性向上が見込める場合 立地や入居状況が良く、継続利用したい場合 近い将来の売却・建て替え方針が決まっている場合

「耐震壁が偏ったビル」における補強部材の配置計画

建物の耐震補強を効果的、かつ合理的なコストで進めるためには、建物の構造的な弱点を見極め、必要な場所に絞って対策を講じることが重要です。

例えば、過去の診断をベースにしたモデルケースを例に挙げてみましょう。

【モデルケースの物件情報】

用途 事務所(オフィスビル)
規模 地上8階・地下2階
延床面積 約4000㎡
構造種別 SRC造(一部RC造)
竣工年 1976年(昭和51年)

このビルを構造分析したところ、「北面と西面には強固な耐震壁が集まっているが、道路に面した南面と東面は窓が多くて壁が極端に少ない」という、構造のアンバランスさ(耐震壁の偏在)が弱点であることが判明しました。このようなケースでは、すでに壁が十分に足りている面ではなく、「壁の少ない側」に絞って補強を行う計画を立てます。

構造のバランスを整える部材配置

このビル全体の耐震バランスを向上させるため、地震時に大きく振られる可能性が高い「南面」と「東面」を重点的に補強する設計を行います。具体的には、建物のフロアごとの特性に合わせて以下のような配置を想定します。

  • 地下2階〜地下1階
    建物全体の土台を支える非常に重要な階です。ここでは、ビルの管理スペースや設備室など、テナントの目に触れず、かつ日常の利用に支障が出ない位置を選定し、強固な耐震壁や鉄骨ブレースを配置して建物下部の耐震性能を高めます。
  • 地上1階〜8階
    テナントが日常的に業務を行うオフィス空間や店舗が入る階です。ここでは、室内のレイアウト変更を強いるような中央部を避け、オフィスの窓際に沿った「外周のフレーム(柱と梁の間)」に絞って補強部材を組み込んでいきます。

このように、建物のねじれを解消するようにピンポイントでバランスを整える設計を行うことで、工事の対象区域を最小限に抑え、結果としてテナントへの影響と工事費用を抑えやすくなります。

テナント営業への影響を抑えやすい代表的な補強方法

テナントが日々の業務を行っているオフィスビルにおいて、テナント営業への影響を抑えるために採用されることが多い工法の一つが「鉄骨ブレース工法」です。コンクリートの壁を新設する工事に比べて、工期が短く、窓からの光や景色を完全に塞がないという大きなメリットがあります。

特徴と、現場での使い分けの目安は以下の通りです。

工法1:鉄骨ブレース(H形鋼ブレース)
ビルの柱と梁の間に、X字やV字型に加工された厚い鉄骨(H形鋼)を組み込む工法です。建物の変形を防ぐ能力が非常に高く、施工実績も豊富です。

工法2:座屈拘束ブレース(高機能鉄骨ブレース)
鉄骨の芯材をコンクリートや鋼管で覆うことで、地震の強い押し引きの力に対しても鉄骨が「折れ曲がらない(座屈しない)」ように工夫された部材です。通常の鉄骨に比べて部材自体を細くスタイリッシュに仕上げられるため、オフィスの窓際に設置しても圧迫感が少なく、室内の採光を広く確保しやすくなります。

テナントからのクレームを防ぐ「施工計画」の立て方

入居中工事において、テナントから最もクレームが出やすいのが「コンクリートに穴を開ける際の激しい騒音と振動」です。これを回避するために、テナント入居中の工事では、以下のような施工計画が重要です。

  • アンカー打設など大きな騒音・振動を伴う作業は、土日祝日や夜間帯に集中的に行う
  • テナント各社へ事前説明を行い、騒音が発生する日程・時間帯を工程表で共有する
  • 外付けフレーム工法などが採用できる場合は、室内への影響を抑える
  • 粉じん、臭気、搬入動線、共用部の養生なども事前に計画する

【概算工事費】延床4,000㎡旧耐震ビルのモデルケースの場合

築古物件の耐震工事を検討する上で、最も気になるのが具体的な「金額」です。先ほど挙げたモデルケース(地上8階・地下2階、延床面積約4,000㎡のSRC造オフィスビル)の場合の、ピンポイント補強を行った場合のリアルなコストシミュレーションをご紹介します。

想定概算工事費のレンジ:1.5億円〜2億円(税込)
※上記は参考値です。実際の費用は、建物形状、劣化状況、補強範囲、工法、施工条件、テナント対応の有無によって大きく変動します。

建て替えを行う場合は、解体費、新築費、設計費、テナント退去対応、工事期間中の収益減少などが発生するため、耐震補強より大きな投資になることが多いですが、本モデルケースでは、既存の構造を活かした耐震補強により、約1.5億〜2億円の概算レンジが想定されています。

これを平米単価や坪単価の目安に換算すると、以下のようになります。

  • 延床平米単価の目安: 約3.7万円〜4.9万円/㎡
  • 延床坪単価の目安: 約12.2万円〜16.2万円/坪

※実際の単価は、補強範囲、工法、施工条件、劣化状況、テナント対応の有無によって変動します。

耐震補強の費用を検討する際は、初期段階で見立てられることと、正式な耐震診断・補強設計を行わなければ確認できないことを分けて考える必要があります。

初期段階で見立てられること 正式診断・補強設計で確認が必要なこと
補強が必要になりそうな方向・階 正確なIs値、CT・SD値
補強工法の候補 配筋状況、内蔵鉄骨の形状
概算費用のレンジ コンクリート強度、中性化、劣化状況
テナント影響の大きい施工範囲 実際の施工計画、工程、騒音・振動対策
補助金活用の可能性 自治体要件、申請時期、対象費目

そのため、本章で紹介する費用は「確定見積り」ではなく、延床約4,000㎡クラスのSRC造オフィスビルをモデルにした概算費用の目安です。

耐震補強の費用負担を抑える補助金・助成金の活用

さらにオーナー様の負担を軽減するための重要な視点が、国や自治体が実施している「耐震診断・補強改修に関する補助金制度」の活用です。

自治体によっては、旧耐震基準の特定建築物や、緊急輸送道路に面したビルなどを対象に、耐震診断費用や補強設計費、耐震改修工事費の一部を補助する制度が用意されている場合があります。これらを賢く組み合わせることで、実際の自己負担額を抑えられる可能性があります。

ただし、補助金は、工事契約後や着工後では対象外になる場合があります。自治体によって対象建物、対象用途、申請時期、補助率、上限額が異なるため、必ず事前に専門家に相談しましょう。

FAQ

Q1. テナントが入居したまま耐震工事をする場合、テナントに対して「営業補償」や「減賃(家賃の値下げ)」をする義務はありますか?

営業補償や減賃の扱いは、賃貸借契約の内容、工事の影響度、事前説明の有無などによって変わるため、一律には判断できません。しかし、工事期間中に激しい騒音や振動で日常の業務に著しい支障が出る場合、テナントから減賃の要望を受ける可能性はあります。そのため、工事前にテナントへ丁寧に説明し、騒音・振動が大きい作業の時間帯や工程を共有しておくことが重要です。

Q2. 窓際に鉄骨ブレースを入れると、部屋が暗くなったり景観が悪くなってテナントが退去してしまいませんか?

確かに昔の工法では窓をコンクリートで完全に潰してしまうような改修もありましたが、座屈拘束ブレースなどを採用できる場合は、通常の鉄骨ブレースに比べて部材をスリムにしやすく設置条件によっては、採光や景観への影響を抑えやすいです。また、耐震補強によって安全性の向上を目指すことは、テナントにとってもBCP対策上の安心材料になります。

Q3. 自治体の耐震補強補助金を使いたいのですが、どのようなビルでも対象になりますか?

自治体によって条件は異なりますが、原則として「旧耐震基準の建物であること」「一定の規模以上の特定建築物であること」、あるいは「震災時に避難路となる主要な道路(緊急輸送道路など)に面していること」などが主な要件となります。また、耐震診断を正しく経た上での補強設計であることなど、プロセスも細かく審査されます。お持ちのビルが補助金の要件を満たすかどうかは、地域の助成金制度に精通した設計事務所へ図面を提示し、初期調査を依頼することをお勧めします。なお、補助金の対象可否は自治体ごとに異なるため、必ず最新の制度情報を確認しましょう。

まとめ

「お金がかかる」「テナントに迷惑がかかる」という理由で、旧耐震ビルの耐震改修を検討しないままにしておくと、建物の安全性や資産価値の面で機会損失につながる可能性があります。モデルケースでは1.5億円〜2億円程度の補強費用が想定されるように、建物の弱点を絞り込むことで、既存ビルを活かした改修計画を立てられる場合があります。

地震のリスクを低減させ、資産価値を高めることは、オーナー様ご自身だけでなく、そこで働くテナントの命と事業を守ることにもつながります。建て替えか現状維持かの二者択一で悩む前に、まずは「いまのビルを活かした補強計画」のシミュレーションを専門家と一緒に作ってみてはいかがでしょうか。

リボビルでは、ビルの現在の保管書類や状態の確認から、過去の豊富なデータベースを活かした簡易耐震性評価、現地での詳細な耐震診断、テナントの営業に徹底配慮した補強設計、そしてビルの収益性を最少コストで最大化する不動産再生まで、ワンストップでサポートします。

「いくらかかるか概算費用を知りたい」など、築古ビルの改修や資産運用でお悩みの方は、お気軽にリボビルへご相談ください。

この記事を監修した人

耐震建築家 山本 健介

耐震建築家 山本 健介

さくら構造株式会社

一級建築士、構造設計一級建築士

1978年北海道札幌市生まれ。大学卒業後、地元の住宅メーカーに勤務し、2008年にさくら構造へ中途入社。現在は札幌第二設計室室長を務める。独自の高耐震基準「TSUYOKU」の開発マネージャーとして、地震に強い暮らしを実現するための研究に取り組んでいる。

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