耐震コラム

耐震診断の必要性と流れ|費用・法的義務・BCP対策まで徹底解説

地震大国である日本では、大規模地震への備えが建物の所有者・管理者にとって必須です。 特に1981年以前に建てられた旧耐震基準の建物や、多くの人が利用する施設は、地震時に倒壊や大破する危険性が高く、事業や生活に深刻な影響を及ぼす可能性があります。

こうしたリスクを事前に把握し、被害を最小限に抑えるための第一歩が耐震診断です。

「うちの建物は安全だろうか…」そう不安を感じたことはありませんか? 本記事では、耐震診断の必要性やBCP(事業継続計画)との関係、法的義務、診断の流れ、費用まで、皆さんの疑問を解消できるよう解説します。 ぜひ最後までお読みいただき、建物の未来を考えるきっかけにしてください。

なぜ今、耐震診断が求められるのか?|日本における地震リスク

日本は世界でも有数の地震多発国です。 阪神・淡路大震災、東日本大震災、そして記憶に新しい能登半島地震と、残念ながら甚大な被害をもたらす地震が繰り返されています。 特に耐震設計の専門家として懸念しているのは、今後30年以内に80%程度の確率で発生するとされる南海トラフ地震です。 最悪の場合、死者29.8万人、経済被害は292兆円、全壊(揺れによる)棟数235万棟にものぼるという試算もあり、想像を絶する事態が予測されています。

このような厳しい現実を踏まえると、既存建物の安全性を確認する耐震診断は、もはや「もしもの時の対策」という選択肢ではなく、「今すぐ取り組むべき必須項目」となっています。

BCP(事業継続計画)と耐震診断の関係

耐震診断は、単なる建物の安全対策に留まらず、企業のBCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)の根幹をなすものだと考えています。 BCPは災害後に業務を早期再開するための計画ですが、考えてみてください。 もし建物が地震で崩れてしまっては、計画どころではありませんよね?従業員の命も、会社の存続も危うくなります。

耐震診断や補強工事は、確かに直接的な売上にはつながりません。 しかし、災害時の被害を最小限に抑えることで、取引先や顧客からの信頼を失わず、優秀な人材の離脱を防ぐことができます。 これは、企業が事業を継続していくうえで、非常に重要な「見えない投資」なのです。

そして、耐震性の高い建物で事業を行っているという事実は、企業イメージを向上させ、緊急時にも強い企業として社会からの評価を高めることにつながります。

耐震診断を依頼できる4つの業者

耐震診断の依頼先はいくつかタイプがあり、それぞれ得意な分野が異なります。 皆さんの目的や建物の状況に合わせて業者を選ぶのが良いでしょう。

  • 意匠設計事務所:建物のデザインや全体計画が得意です。小規模な事務所では構造専門の技術者がいないことも多く、耐震診断は別の事務所に依頼するケースが一般的です。
  • 建設会社(ゼネコン):実際に工事を行うことに強みがあり、資本力も豊富です。耐震診断だけでは利益が出にくいこともあり、最終的に耐震補強工事の受注を目指している場合が多いです。
  • 耐震補強メーカー:独自の補強工法を持っている会社です。その補強工法を使ってもらうことが目的になるため、診断後に行われる補強設計の提案の幅が狭まる傾向があります。
  • 構造設計事務所:耐震診断を専門とする構造技術者が在籍しており、工事を請け負わないため、常に中立的な立場で公正な評価と最適な提案ができます。

知っておきたい耐震診断の基礎知識|新旧耐震基準と法的義務

旧耐震基準と新耐震基準、その背景

日本の耐震基準は、過去の大地震の教訓から繰り返し見直されてきました。 特に大きな転換点となったのが、1981年6月の建築基準法改正です。 この改正以前に建てられた建物を「旧耐震基準」、それ以降の建物を「新耐震基準」と呼びます。 1995年の阪神・淡路大震災では、旧耐震基準の建物に被害が集中したことから、新旧の基準の差が明らかになりました。

耐震改修促進法と診断義務

阪神・淡路大震災の悲劇を経て、1995年には「耐震改修促進法」が施行されました。 この法律は、建物の種類や規模によって耐震診断の義務を定めています。 例えば、病院や学校、ホテル、百貨店、避難路(緊急輸送道路等)沿道建築物などは耐震診断が義務付けられており、これに違反すると罰則が適用される場合もあります。

一方で、診断が「努力義務」とされている建物もありますし、特別な規定がない建物もあります。 しかし、義務がないからといって何もしなくていいわけではありません。 万が一の災害時に被害を最小限に抑え、大切な資産価値を守るためにも、自主的に診断を実施することをおすすめします。

耐震診断の具体的な流れと評価基準

耐震診断の一般的な流れ

耐震診断は、主に次の3つのステップで進められます。

  1. 予備調査:まず、建物の保管設計図書の確認を行います。既存図面、確認通知書、検査済証、構造計算書の内容を確認します。建物の増改築や修繕履歴等も確認します。次に現地にて簡易な目視調査を行い、診断を行ううえでの問題点や診断レベルを判断します。
  2. 現地調査:実測による既存図面との整合調査、周辺地盤の調査、建物の傾斜調査、外壁等の構造ひび割れ調査、コンクリートの圧縮強度・中性化試験、鉄筋・鉄骨の探査等の耐震診断を行うために必要な専門的な調査を行います。建物の「現況の健康状態」を詳しく調べていく健康診断のイメージです。
  3. 評価・判定:耐震診断基準に基づき、現地調査結果を反映させた耐震診断(構造計算)を行います。耐震診断の結果算定される「構造耐震指標(Is)」の数値が、基準値以上であれば「耐震基準に適合している」と判定されます。耐震診断結果により耐震補強が必要な場合には、概算補強案を提示します。

耐震診断の詳細な調査内容は以下のとおりです。

予備調査 建物概要 所在地、用途、設計者、施工者、設計年、竣工年、延床面積、建築面積、階数、構造種別、基礎形式、仕上げ等
関係書類 確認申請書類、検査済証、設計図書(特に構造図)、構造計算書、地盤調査資料等
使用履歴 現在の使用状況、増改築、改修、被災履歴、用途変更等
現地調査 外観調査 ひび割れ、不同沈下、エキスパンションジョイント等
材料調査 コンクリートコア採取による圧縮強度・中性化深さ測定等
図面照合 柱・梁や壁の断面寸法及び位置、壁の開口寸法、増改築による壁や開口等の変更
敷地内及び周辺の状況 地盤種別、がけ、敷地の傾斜等
はりつ調査 構造図が無い場合に柱、梁、壁等の鉄筋径・本数、鉄骨のサイズ等を調査
図面の復元 各階平面図、立体図、断面図、内外仕上げリスト、各階伏図、軸組図、構造部材リスト、主要設備機器配置図等々

Is値による評価とは?

耐震診断で最も重要な指標の一つが耐構造耐震指標(Is値)です。 Is値は、建物の強度、じん性(粘り強さ)、形状、そして経年劣化などを総合的に考慮して算出される数値です。 専門家による詳細な現地調査と耐震診断(構造計算)を経て算出されたIs値は、次の判定基準により耐震性の評価をします。

【Is値の判定基準】
  • Is値0.6以上:「倒壊の危険性が低い」と判定され、耐震基準に適合していることになります。ただし、大規模な損傷の可能性はゼロではありません。
  • Is値0.6未満:「倒壊の危険性がある」と判定され、耐震基準に適合していません。速やかな耐震補強が推奨されます。
  • Is値0.3未満:「倒壊の危険性が高い」と判定され、耐震基準に適合していません。一時避難や建替えも視野にいれた、速やかな耐震補強が推奨されます。

耐震診断費用の目安

耐震診断にかかる費用は、診断のレベルや建物の規模や構造、そしてどこまで詳しく調べる必要があるかによって大きく変わってきます。 一般的な目安としては、以下のようになります。

<参考>
構造種別 耐震診断費用の目安 備考
RC造(鉄筋コンクリート造) 約2,000円/㎡~約3,500 円/㎡ ※延床面積が1,000㎡~3,000㎡の建物の場合
S造(鉄骨造) 約2,500円/㎡~4,000円/㎡ ※延床面積が1,000㎡~3,000㎡の建物の場合
木造住宅 約60万円~100万円 ※延床面積が120㎡前後の在来軸組構法1棟あたり

特に注意していただきたいのは、図面がない場合です。 図面がないと、図面復元のため現地調査の項目が増え、その分費用が非常に高額となります。

また、耐震診断や補強工事には、国や地方自治体から補助金(助成金)が出る場合があり、費用負担を軽減できる可能性があります。 地域の制度によって条件や補助額が異なるため、ぜひ事前に所在地の自治体の制度を調べてみてください。

まとめ|耐震診断は将来の安心と資産価値を守る第一歩

耐震診断は、単なる「建物の健康診断」ではありません。 これは、皆さんの大切な命と事業、そして資産価値を守るための、非常に重要な「先行投資」であり、未来に向けた意思決定ツールだと私は考えています。

診断を通じて建物の耐震性能を正確に把握すれば、漠然とした不安が具体的な計画に変わります。 必要な補強の方向性や費用、工期が明確になり、無駄のない対策を講じることができるのです。

特に、1981年以前に建てられた旧耐震基準の建物、多くの人が集まる施設、そして会社の事業拠点となる建物では、一度の大地震が経営や生活に深刻な影響を与える可能性があります。 そのリスクを放置することは、将来の大きな損失や信頼低下につながりかねません。

「うちの建物は大丈夫だろうか…」

少しでもそう感じたら、まずは耐震設計の専門家に相談しましょう。 私たちは、構造設計専門の技術者として、法律や基準、補助金制度まで網羅した公正かつ実務的な耐震診断をご提供しています。 無料の事前相談も受け付けておりますので、建物の安全性と将来の価値を守るために、ぜひ一度お気軽にお問い合わせください。

耐震診断・耐震補強設計(非木造)なら全国対応可能!まずはお気軽にご相談ください。

この記事を監修した人

耐震建築家 田中 真一

耐震建築家 田中 真一

さくら構造株式会社 代表取締役社長

一級建築士、構造設計一級建築士

さくら構造は、2025年現在、社員数150名、売上高20億円を超える規模を有し、非木造建築においては構造設計棟数で全国トップクラスを誇る高耐震設計グループである。独自の高耐震基準「TSUYOKU」を開発し、地震に強い暮らしを実現するとともに、日本の構造設計を世界に誇れる仕事へと発展させるべく、日々研究に取り組んでいる。

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